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WIENER WERKSTÄTTE TEXTILES
純粋に、美しいものを求めて。ウィーン工房のテキスタイル
Written By Ariana Martin
© 2026 Ariana Martin, ama. All rights reserved.
Original article: WIENER WERKSTÄTTE TEXTILES
Japanese text by Ai Ota (ama)
カール・オットー・チェシュカ(Carl Otto Czeschka)がウィーン工房のためにデザインしたブロックプリントシルク『Heron』(1910-11年)所蔵:ハーバード美術館(Harvard Art Museums)
(左)マリア・リカルツ=シュトラウス(Maria Likarz-Strauss)によるプリントシルク(1924年)所蔵:オーストリア応用美術博物館(MAK)
(右)マリア・リカルツ=シュトラウスによる『Fidelio』のデザイン原画(1928年頃、ガッシュ) 所蔵:クーパー・ヒューイット国立デザイン博物館(Cooper Hewitt)
20世紀のデザインと装飾美術において、ウィーン工房(Wiener Werkstätte)が及ぼした影響の大きさは計り知れません。19世紀末から20世紀初頭にかけて、大量生産品があふれるデザインの潮流に異を唱え、美しい手仕事の価値を問い直し活動したのが、革新的な芸術家と職人たちの協働体「ウィーン工房」でした。
工房は1903年、オーストリアの建築家ヨーゼフ・ホフマン(Josef Hoffmann)と画家のコロマン・モーザー(Koloman Moser)によって設立されました。
その根底にあった理想は、生活のすべてが美しく彩られた世界。芸術家自らがデザインを手がけ、職人の丁寧な手仕事と一緒に美しい暮らしの道具を生み出すことで、彼らはその理想に向かっただけでなく、その志は世界中の多くのデザインスタジオやムーブメントへと波及していきました。イギリスのオメガ・ワークショップやドイツのバウハウスなど、ほんの一例を挙げただけでも圧巻です。アリアナ自身、修士課程で1930年代のファブリックを研究していた際、数多くのイギリスのテキスタイル企業がウィーン工房のスタイルやモチーフを取り入れていたのを目にして、非常に興味深く感じたと語っています。
ウィーン工房は30年間にわたり活動し、その間、膨大な数の職人とともに、キャビネットからカトラリー、テキスタイルからティーポットまで、ありとあらゆる家具や日用品を制作しました。
(左)レニ・シャシュル(Reni Schaschl)による生地『Columbia』を使用したランプシェード(1912年頃)
(右)マックス・スニシェク(Max Snischek)による生地サンプル『Manissa』(1925-26年) 出典:『Textiles of the Wiener Werkstätte』Angela Völker著
工房は1910年に独自のテキスタイル部門を設立。それから1932年までの間に、100人ものデザイナーにより1,800点にのぼる個性豊かなテキスタイルが制作されました。その規模とデザイナーの多様性ゆえに、ウィーン工房にはハウススタイルと呼ばれる固定された様式は存在しませんでした。彼らの膨大なテキスタイルデザインのアーカイブを見てみると、そのパターンは極めてミニマルなものから、遊び心にあふれた装飾的なもの、そして中には突き抜けたサイケデリックなデザインまで、その豊かな表現力には驚かされます。
美術史家のヴァルトラウト・ノイヴィルト(Waltraud Neuwirth)が美しく表現したように、彼らのデザインには「構造美であり運動、古典主義でありバロック、装飾の不在であり過剰、厳格であり歓喜、モノクロであり溢れんばかりの色彩…」という対極の美が共存しており、まさに暮らしを美で満たす総合芸術の精神が息づいていると感じられます。
ウィーン工房の創設者であり最高責任者であったヨーゼフ・ホフマンは、自身も数多くのテキスタイルデザインを手がけるとともに、若手デザイナーたちの実験的なチャレンジを温かく後押ししました。デザイナーの多くはウィーン美術工芸学校でホフマンに師事しており、その精神を受け継いで同工房で働くことは自然な流れでした。
カール・オットー・チェシュカによるテキスタイル『Waldidyll』(1910-11年) 出典:『Textiles of the Wiener Werkstätte』Angela Völker著
マリア・リカルツ=シュトラウスによるテキスタイルデザイン原画(1923年頃、ガッシュ) 所蔵:オーストリア応用美術博物館(MAK)
1910年代に入ると、ウィーン工房の主要なデザイナーたちは、ヨーロッパの伝統的なフォークアート(民芸)が持つ素朴な美しさや手仕事のぬくもりに深く惹かれていきます。その姿勢は、代表作である『Waldidyll』(上の写真)などのテキスタイルにも色濃く表れています。デザイン史家のレスリー・ジャクソン(Lesley Jackson)が述べているように、彼らは伝統的な花柄モチーフに新たな息吹を吹き込み、手仕事ならではの力強さとみずみずしい活気を宿しました。
工房の規模が大きくなるにつれ、彼らは高く掲げた理想と、商業的な存続との間で苦悩するようになります。市況の影響もあり度重なる財政難に直面し、存続を図るため次々と財務責任者を起用し試行錯誤を重ねましたが、1932年、ついにその歴史に幕を下ろすこととなりました。(いずれにせよ、迫り来る戦争を乗り越えることができた工房は多くはありませんでした。)
貴重なコレクションの大部分は、すべてのテキスタイルを含めオーストリア応用美術博物館(MAK)へ売却されました。ああ、あのアーカイブで1週間過ごせたらどんなに素晴らしいでしょう…!
ウィーンに行かなくても、お部屋で彼らのテキスタイルアーカイブをもっと見たいという方は、アンジェラ・フォルカー(Angela Volker)著『Textiles of the Wiener Werkstätte 1910-1932.』をおすすめします。
(左)ヨーゼフ・ホフマンによる生地『Serpentin』(1910-15年)
(右)ウィーン工房の生地スワッチ(デザイナー不詳)
FURTHER READING
参考文献
・Textiles of the Wiener Werkstätte 1910-1932: Angela Volker
1枚の紙に宿る、美の理想。
SPOTLIGHT ON 04
「ウィーン工房のクリスマスカード」

日常を美で満たす理想を追い求めたウィーン工房。彼らの情熱は、家具やテキスタイルにとどまらず、手元に届く一枚のクリスマスカードにも注がれていました。時代を超えて愛される、小さなアートの物語。SPOTLIGHT ON 04では、100年前のデザイナーたちが情熱を注いだクリスマスカードの世界をひも解きます。
一枚の小さな紙に込められた、溢れるアイデアと美しい手仕事。クリスマスを迎えるこれからの季節にぴったりのストーリーもぜひご覧くださいませ。