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ASHLEY HAVINDEN
広告、フォント、そしてテキスタイルへ。アシュリー・ハヴィンデンが描いた躍動するデザイン
Written By Ariana Martin
© 2026 Ariana Martin, ama. All rights reserved.
Original article: ASHLEY HAVINDEN
Japanese text by Ai Ota (ama)
Ashley Havinden at work. Image source Design Council Archive, University of Brighton Design Archives.
仕事中のアシュリー・ハヴィンデン。デザインカウンシル・アーカイブ(ブライトン大学デザインアーカイブ所蔵)
プロフェッショナルとしてはシンプルに「アシュリー(Ashley)」の名で知られるアシュリー・ハヴィンデン(Ashley Havinden, 1903-1973)は、20世紀を代表する素晴らしいデザイナーのひとりです。彼は主に、人の心を動かす広告を手がけた商業アーティストとして知られていますが、その真価はグラフィックにとどまりません。タイポグラフィ、絵画、インテリアデザイン、テキスタイルデザインと、領域を超えモダニズムの美学を当時の人々の暮らし全体へと広げていきました。躍動感あふれる詩的なデザインスタイルは、特にトレードマークであるブラッシュレタリングと組み合わさると一目で彼の作品だと分かります。
誰もが認めるハイセンスなおしゃれさんで、完璧主義者。そして息子のマイケルによれば「陽気で楽観的。一緒にいてとても楽しい人」だったというアシュリー。
彼は広告業界、当時商業美術(コマーシャル・アート)と呼ばれていた分野でキャリアをスタートさせました。ロンドンの広告代理店W.S.クロフォード(W.S. Crawford)を率いていたウィリアム・クロフォード(William Crawford)は、当時18歳だったみずみずしい才能を見出し、レイアウトアーティスト見習いとしてアシュリーを雇います。W.S.クロフォードは、モダニズムをいち早く取り入れた広告スタイルで先駆的な存在として知られ、ドラマ『マッドメン』のような広告の世界が30年早くロンドンで繰り広げられていました。
クロフォードの瞳は確かなものでした。アシュリーはキャリアのすべてを同社で過ごし、マルティーニ(Martini)、リバティ(Liberty’s)、クライスラーなどの広告キャンペーンを統括し、数々の名作キャンペーンを生み出していきます。クロフォードは1929年に彼をアートディレクターに任命し、1960年には副会長の座を任せます。また、アシュリーはここで妻となるマーガレットと出会います。彼女もまた、当時の女性としては画期的なことに同社の取締役に就任しました。
けれど、彼をただの広告マンと呼ぶには言葉が足りません。アシュリーは広告という「商業」の現場にいながらも、「純粋芸術(ファインアート)」の最前線とも直結していました。分野をこえて生活空間全体のデザインの質を高めていくこと、それこそがアシュリーの生涯にわたる探求であり、モダニズム運動をともに駆け抜けた同時代のクリエイティブな仲間たちとも共鳴する使命のようなものでした。
Left: Eno’s Fruit Salt ad campaign, 1927. Image Source V&A collections.
Right: Campaign for the Milk Marketing Board, 1936.
(左)Eno’s Fruit Salt の広告キャンペーン(1927年、V&Aコレクション所蔵)と、(右)ミルク・マーケティング・ボードの広告キャンペーン(1936年)
同僚からはビルと呼ばれていたウィリアムを師と仰ぎ、アシュリーは1920年代に数多くの印象的な広告キャンペーンを手がけます。二人はともに、当時ドイツで台頭しつつあった新しいグラフィックスタイルに関心を寄せていました。アシュリーが手がけた「エノのフルーツソルト(Eno’s Fruit Salt)」のインパクトある広告(上)をご覧ください。フラットな色彩、力強い重厚なフォント、そして斜めのラインを意識したレイアウトは、当時のドイツの先駆的なデザイナーたちが推し進めていた新しいグラフィック表現が見事に取り入れられています。この広告は当時のデザインシーンで注目を集め、1931年にはV&A(ヴィクトリア&アルバート)博物館のポスター展の出展作に選ばれるに至りました。
1930年代半ば以降、アシュリーが描く軽快で生き生きとしたブラッシュレタリング(手描き風筆文字)は、彼のトレードマークとして定着していきます。1955年には、この書体はモノタイプ社によって『Ashley® Script フォント』として正式にリリースされました。今日でも私たちがこのフォントを目にした際ミッドセンチュリーらしい雰囲気を色濃く感じるのは、まさにこういった背景によるものでしょう。
Design for rug, Gnocchi 1937, gouache on paper. Image source Advertising and the Artist, Hollis et al, 2003.
ラグのデザイン案〈Gnocchi〉1937年、紙にガッシュ。(『Advertising and the Artist』リチャード・ホリス他著、2003年)
1930年代に入る頃には、アシュリーのアドレス帳はモダニズムの巨匠たちの名簿のようになっていました。モダニズム運動への関心が高まるにつれ、ヘンリー・ムーア(Henry Moore)、ポール・ナッシュ(Paul Nash)、バーバラ・ヘップワース(Barbara Hepworth)、ウェルズ・コーツ(Wells Coates)、そしてバウハウスの巨匠ヴァルター・グロピウス(Walter Gropius)とモホリ=ナジ・ラースロー(László Moholy-Nagy)といった面々と親交を深めるようになりました。
ハヴィンデン夫妻にとって実り多き友情のひとつは、1933年に出会ったダンカン・ミラー夫妻とのものでした。ジョン(John)とマデリン・ダンカン・ミラー(Madeline Duncan Miller)夫妻は、アートと建築の融合というモダニズムの理想を掲げるインテリアデザイン会社を営んでおり、特に家具用ファブリックに力を入れていました。夫妻は1934年にアシュリーにラグのデザインにチャレンジしてみるようすすめ、製造はダンカン・ミラー社が担当しました。
アシュリーは後にこう語っています。「大胆な筆のタッチと鮮やかな色彩を取り入れて、モダンなラグのためのダイナミックな(swooping)デザインを生み出すというアイデアに、私は飛びつきました。」
そして、できあがったデザインはまさに躍動感に満ちあふれていました。興味深いことに、これらのラグを手がけていた当時、アシュリーは彫刻家のヘンリー・ムーアからデッサンを学んでいます。日本でもたくさんの作品を目にすることができるヘンリー・ムーアの彫刻作品。〈Gnocchi〉に見られるようなぬくもりのある有機的なフォルムは、まさにムーアの有名な彫刻作品を思い起こさせます。

Top: Section of Fontainebleu rug, 1936.
Bottom: Exhibition of Ashley’s textiles and rugs held at Duncan Miller Ltd, London, 1937.
(上)1936年に発表されたラグ〈Fontainebleau〉の一部と、(下)1937年にロンドンのダンカン・ミラー社で開催されたアシュリーのテキスタイル・ラグ展
アシュリーはその後もキャンベル・ファブリックス(Campbell Fabrics)やオールド・ブリーチ・リネン・カンパニー(Old Bleach Linen Co)といったテキスタイルメーカーへ生地デザインを提供していきますが、おそらく最も多くのコラボレーションを行ったのは、エディンバラ・ウィーバーズ(Edinburgh Weavers)のアラステア・モートン(Alastair Morton)でしょう。アラステアは、かつて英国を代表するテキスタイルメーカーだったモートン・サンダー・ファブリックス(Morton Sundour Fabrics)を継いだ3代目。モダンデザインの方向へ舵を切るべく、彼は1931年にMSFの傘下でグループ会社エディンバラ・ウィーバーズを設立、洗練されたデザインを求める国内外の消費者向けに、アーティストが手がける新しいテキスタイルを提案していました。
モートンがアシュリーと出会ったのは1935年、MSFの広告デザインをW.S.クロフォードに依頼した際のことでした。アシュリーがデザインした陽気で愛らしいヒマワリモチーフに魅了されたモートンは、すぐさま自社エディンバラ・ウィーバーズのための生地デザインをアシュリーに依頼しました。アシュリーにとって、自身のデザインをリピート柄(繰り返しパターン)に展開する試みはこれが初めてだったかもしれませんが、モートンの導きのもと誕生したコレクションは期待を裏切らないものとなりました。
Left: Ararat printed linen, designed for Campbell Fabrics, 1937. Image source V&A collections.
Right: publicity brochure for Morton Sundour Fabrics, 1935. Image source V&A collections.
(左)Campbell Fabrics のためにデザインされたプリントリネン〈Ararat〉(1937年、V&Aコレクション所蔵)と、(右)Morton Sundour Fabrics の宣伝パンフレット(1935年、V&Aコレクション所蔵)
エディンバラ・ウィーバーズのために彼が手がけた最初のデザイン〈Milky Way〉は、当時アール・デコ調のテキスタイルによく見られる角張ったフォルムとは一線を画す、流れるような詩的な趣を帯びています。1938年当時のチェアやソファにこの生地を張り込んだ写真(下)を思いがけず見つけたときには、胸が高鳴りました。ダイナミックでリズミカルなプリントパターンが、空間全体に生き生きとした活気を与えてくれています。
Top: Milky Way woven fabric, designed for Edinburgh Weavers, 1935.
Edinburgh Weaversのためにデザインされた織地〈Milky Way〉(1935年)
Milky Way fabric in situ, from Interior Decoration Today by H.G. Hayes Marshall, 1938.
インテリア空間における〈Milky Way〉(『Interior Decoration Today』H.G. ヘイズ・マーシャル著、1938年)
レスリー・ジャクソン(Lesley Jackson)の名著『アラステア・モートンとエディンバラの織工たち(Alastair Morton and Edinburgh Weavers)』によると、モートンを彼の住むハムステッドの「美しき芸術家たちのコミュニティ」へと引き合わせたのはアシュリーその人だったと綴られています。ロンドン北部の高級住宅地ハムステッドは、詩人や作家、画家など数多くの文化人に愛されたモダニズム芸術家の一大拠点だったのだそうです。この出会いがきっかけとなり、モートンは1937年に、気鋭のアーティストたちを起用したファブリックライン「Constructivist Fabrics」を立ち上げるに至りました。
バーバラ・ヘップワース(Barbara Hepworth)、ウィニフレッド(Winifred)&ベン・ニコルソン(Ben Nicholson)夫妻、アーサー・ジャクソン(Arthur Jackson)、アイリーン・ホールディング(Eileen Holding)といった顔ぶれに並び、アシュリーもまた〈Segment〉と〈Ashley’s Abstract〉(下図)2つのデザインを提供しました。特に〈Ashley’s Abstract〉は、ブルー、グレー、ラスト(錆色)を基調としたダイナミックな有機的フォルムが際立つデザインで、ここでもまた、ムーアやヘップワースの彫刻作品を強く想起させます。当時、自身も抽象画家を志していたアシュリーにとって、自らのキャンバスからテキスタイルデザインへとモチーフを応用していくアプローチは、とても自然な試みだったことがうかがえます。
戦後、アシュリーは1946年にV&A博物館で開催された展覧会「Britain Can Make It」展のポスターとカタログデザインを担当し、英国を代表するデザイナーとしての地位を確固たるものとしました。この展覧会は、戦後の欠乏と緊縮財政による暗雲が立ち込める中、イギリスの貿易と製造業促進のため政府主導で開催された歴史的なものでした。
アシュリー・ハヴィンデンがデザインの世界へ果たした功績はあまりに大きく、まだまだ語りたいことは尽きませんが、今回はひとまずここまでにしておきます(もしかしたら、近いうち後編を執筆するかもしれません)。彼は決してライバルと競い合うタイプではなく、自分が素晴らしいと認めたアーティストたちを称え、光を当てることに喜びを感じる人だったのではないでしょうか。彼の同僚でありデザイン批評家であったジョン・グローグ(John Gloag)は、彼についてこう評しています。「彼は卓越した才能のプロデューサーであり、期待の新人デザイナーたちのためにチャンスを見つけ、あるいは自ら場を創り出すことに、惜しみなく情熱を注いだ。」
彼が描きつづけた貴重なレガシーは、現在もスコットランド国立美術館のアーカイブで大切に保管されています。
未来のみずみずしい才能と出会える日を待ち望んで。保管庫の中で、今もしずかに、躍動し続けていることでしょう。
Ashley’s Abstract, screen-printed glazed cotton for Edinburgh Weavers, 1937.
Image source Advertising and the Artist, Hollis et al, 2003.
1937年、Edinburgh Weavers のために制作されたスクリーンプリントのグレースド・コットン生地〈Ashley’s Abstract〉(画像『Advertising and the Artist』Hollis et al., 2003年)
FURTHER READING
参考文献
・Advertising and the Artist: Ashley Havinden, Richard Hollis, Ann Simpson & Alice Strang, 2003.
・Ashley’s Textiles, Richard Calvocoressi, The Journal of the Decorative Arts Society 1890-1940, No. 3 (1979).
・Alastair Morton and Edinburgh Weavers: Visionary Textiles and Modern Art, Lesley Jackson, 2021.
・Moving the Hearts and Minds of Men: Bill Crawford, Ad Man, Ruth Artmonsky, 2014.
・“Ashley Havinden”, University of Brighton Design Archives blog,
https://blogs.brighton.ac.uk/royaldesigners/2016/06/06/ashley-havinden/
・“Ashley Havinden and the ‘Britain Can Make It’ poster”,
V&A Museum website, https://www.vam.ac.uk/articles/ashley-havinden-and-the-britain-can-make-it-poster
・20th Century Pattern Design, Lesley Jackson, 2002.
1年分の感謝を込めて、心踊るクリスマスのおたよりを。
Ariana Martin X Archivist
活版印刷のクリスマスカード
「Merry Christmas Dog」

アーキヴィストとコラボレーションした、活版印刷のクリスマスカード「Merry Christmas Dog」。
おめかしした愛らしいわんちゃんが届けてくれるお便り「Merry Christmas!」は、Ashley® Scriptフォントの生みの親、アシュリー・ハヴィンデンへの敬意を込めてデザインされました。
まるで今にも走り出しそうな、躍動感あふれるわんちゃん。職人の手仕事が生み出すかすかな凹凸やインクのにじみ、手に取った瞬間に伝わる紙のぬくもりも、活版印刷ならではの贅沢な味わいです。
この冬、1年分の感謝の気持ちを込めて。大切な方へ、心踊る冬のメッセージをお届けしませんか。